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第1回|株式会社ヤン|代表取締役|渡邊健太郎さん


「とても怖い人に怒られたい。約束の前日から食事が進まなくなり、待ち合わせ場所に1時間も前から冷や汗握りしめて直立してしまうほど、威厳を感じるそんな人に。」
そう打ち明けるのは、株式会社ヤン代表取締役の渡邊健太郎さん。普通の人は、大人になってまで怒られたくない、と考えます。少なくとも、私は怒られるのは好きじゃないです。重厚な革張りソファにどっぷりと腰掛けた厳めしい人の前で、緊迫した雰囲気に小さく震える渡邊さんを想像してみる。目の前の渡邊さんはいたって真剣な目をしている。

渡邊さんはご友人の有機栽培農家さんから野菜を購入しており、段ボール詰めで送ってもらうのだとか。忙しい仕事で空かせたお腹を満たすものは、美味しさにもこだわりたいです。

 

やってみたいことをやってみたら、その先にあったもの

 

──   そもそも、株式会社ヤンはどのような事業内容なのでしょうか

 

渡邉   今はゴルフウェアを中心としたECビジネスや制作事業、マーケティング事業など幅広く手がけています。“なんでもやってみたい”性格なんです。

 

──   自称“つまみ食いのプロ”である私もその気持ち、よくわかります。

 

『恵比寿西口近くの「春秋ユラリ」でビュッフェと釜揚げシラス丼セット。ビュッフェの極意は一品一品を本当に一口ずつ盛ること。』

 

──   でも、“やってみたい”のと“やってみる”ことの間には大きな隔たりがあるような気もします。どのような経緯で、今の会社を立ち上げることになったのですか。

 

渡邉   演劇を学生時代にやり、その時のゼロからものを創り上げる喜びが好きで、何かものづくりに関わる仕事がしたいと考えました。就職活動ではマスコミやIT系など興味の赴くままたくさんの企業を受け、たまたま内定を貰って入社したのが大日本印刷でした。入社後営業を3年半やりましたが、上司には怒られてばかりのイケてないサラリーマンでした。そんなとき社内ベンチャーの募集を聞き、真っ先に手を挙げました。大学時代の友人がベンチャー企業で活躍している姿に憧れていたことと、プロジェクトの内容が元々興味のあったITを使ったマーケティングだったことが大きな理由でした。むさ苦しいそれまでの職場とは打って変わってプロジェクトメンバーは煌びやかな女性がたくさんいるし、冴えなかった営業と違ってなんでもやらせてもらえたし、めちゃくちゃ楽しかったです。

 

──   私もキレイナオ姉サン大好きです!そんな素敵なプロジェクトなら、ジョインするにはかなりの競争率だったんじゃないですか。

 

渡邉   社内からは全く人気がありませんでした。社内ベンチャー自体が前例のない取り組みで、その後のキャリアモデルに不安を感じたのか、誰もやりたがらなかったんです。社内ベンチャーを経験した後は“もっと自分の手でやってみたい”という欲求の高まりと共に、スタートアップのベンチャー企業に転職し、更には起業という流れで今に至っています。

 

──   なんだか簡単そうに言いますが、不安はなかったのですか。たった一人で起業とは心細い。

 

渡邉   不安は全くなかった、とは言えませんが、うまくいかなくても野たれ死ぬことはないと考えていました。ただ、想像以上の速さで減っていった貯金の残高には正直焦りを感じました。駅や公園での生活も他人事じゃないかもって。

 

──   でも、実際は家を失う前に事業は軌道に乗っていったんですよね。

 

渡邉   そう。ECやweb動画のマーケティングビジネスが安定し、社員も増えました。社員が増えてより幅広く“やってみる”ことが出来るようになった一方で、社員を養わなければいけないという不安も増えました。経済的な不安だけでなく、社員にとって成長できる環境を提供するという新たな使命も生まれました。

 

 

会社は自分を映す鏡

 

──   ところで、渡邊さんの思う理想の組織ってどんな組織ですか。

 

渡邉   レアルマドリードです。一人ひとり全員がスター選手でかつチームで一つの目的に向かって支え合う関係って最高だと思います。だからヤンの社員にも一人ひとりがグングン成長してもらって、その結果としてヤンも大きくなればいいな、と考えていたのだけど。

 

──   けど?

 

渡邉   気づいたんです、会社というのは経営者以上に大きくはならないってことに。だから、経営者の器を大きくするのが先です。でも、自分で自分を鍛錬するのって難しいんです。この齢になると自分のこともだいたいわかるから。すぐ楽しい方に流れちゃうんです、渡邊という男は。笑 だから、定期的にこわーい人に叱って欲しいです。

 

──   世の中にはカウンセラーやコーチングを利用して自分を見つめる機会を持つ経営者も多いと聞きますが、そうした対象を持つのとは違うのでしょうか。

 

渡邉   やはり、僕の場合はピシャッと叱ってくれる人がいいですね。怖くて怖くて、怒られたくないから死にもの狂いでがんばる、そういう気持ちになれることが必要だと思います。

 

──   意外と体育会系なのですね。学生時代は演劇をされていたそうなのですが体育会系の雰囲気でしたか。

 

渡邉   劇団によってはバリバリの体育会系のところもあるけれど、僕が所属していた大学の演劇部は全くそんなことありませんでした。そもそも、僕が入部したのは大学の3年生のときでした。

 

──   大学3年生の新入部員とは珍しいですね。既にあるコミュニティに参入するのってやりにくかったりしませんか。

 

渡邉   全然気になりませんでした。というよりも、途中から入ったのにあたかもメインストリームであるような顔をするのが得意なんです!

 

──   なかなか希有な才能をお持ちなんですね。周囲に気を遣う印象がありますが、いい意味で図太いところがあるというか。

 

渡邉   基本はナイーブな性格なんですが、やりたいことはやるタイプなんです。昔は喧嘩もたくさんしました。

 

──   喧嘩をよくしていたなんて想像ができません。本当ですか。

 

渡邉   新卒で入社した会社では上司に噛み付いたり、陥れるようなことをしたりと、今思えば酷いこともしました。

 

──   全く想像できないのですが。

 

渡邉   もちろん今は違います。サラリーマン時代と違って、会社が上手くいくのもそうでないのも全部自分のせいですから。会社は自分を映す鏡です。それがわかると、周囲に対する感情も全く異なるものになりました。人間として成長したいなら経営者になることです。

 

──   “圧倒的成長”を会社の魅力に掲げる企業も多いですが、“人間としての成長”を望むなら経営者になることが一番なのですね。

 

ランチを終えて

第一弾は超大手企業の社員からベンチャー企業経営者となった渡邊さんにお話をお伺いしました。途中から参入したにも関わらずメインストリームの一員となってしまう才能って、ビジネスの世界においてもすごい才能なんじゃないかしら。大きな夢のお話の後に見せた未来を見つめる視線が、なんとも光に満ちていました。

 

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