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第2回|株式会社こころみ|代表取締役|神山晃男さん


「創業社長って、なんかすごい。なんか、勝てない。その世界を一回知らねばならない。会社を立ち上げた背景には、そうした思いがありました。でも、そのなんかが何かってことは、正直今でもわからない。」
む、む、む。これは何とも難しい課題です。その“なんか”を今回のインタビューを通じてお伝えできるかどうか。。。
今回取材にご協力いただいたのは、株式会社こころみ代表取締役の神山晃男さんです。高齢者の孤独という、日本が今まさに直面している大きな課題に立ち向かう事業をされています。

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孤独を救う、会話の相手は誰?

 

──   早速なのですが、“こころみ”という社名に込める思いを聴かせてください。

 

神山  ダジャレです。『心を見る』という意味と『試みる』という意味の二つを掛け合わせています。

 

──   素敵なダジャレですね。『心を見る』という意味でいくと、私自身も“人の心”に興味があり、ライターという仕事を選びました。心を見ることが、どのように事業内容と結びつくのでしょうか。

 

神山   僕は心の問題、特に、孤独に関心があります。高校時代、親元を離れ、音無響子のいないめぞん一刻のような寮生活を送りました。その時に僕自身、強い孤独を経験しました。

 

──   そんなめぞん一刻は、いやだ(笑)。だから、高齢者の“孤独”に注目しているのですね。

 

神山   そうです。高齢者見守りサービス、と修飾されることも多いですが、見ているのは、人の心。だから会話が大切なんです。一人暮らし高齢者の4割が2,3日に一回以下しか人と話をしていないというデータがあります。孤独は寂しい、つらいです。さらに、孤独な方は死亡リスクや要介護リスクが高まるという研究結果もあります。そうした方々が少しでも楽しく過ごせるようなお手伝いをしたい。そう考えています。

 

──   将来に向けても今のようなビジネスモデルを展開されるのでしょうか?

 

神山   今はコミュニケーターを雇い、一人暮らしの高齢者に電話による対話を提供しています。しかし、必ずしもそれがずっと続くとは限りません。例えば、将来的にはロボットがコミュニケーションの相手をすることになるかもしれません。

 

──   ロボット!?つまり人工知能ということでしょうか。昔ウチの婆ちゃんが一人でずっとファービーと会話しているのを目撃したことがあります。その光景だけでもシュールでしたが、もっと衝撃的なことに、全く話が噛み合わないまま会話を続けていました。

 

神山   それでも、いいんです。そもそも、人間同士だって完全にお互いを理解し合う事なんて不可能なんですから。

 

──   なるほど。人間同士でさえ多分に勘違いを抱えながらコミュニケーションしているのだから、コミュニケーションの相手は人工知能にも代替可能だ、というわけですね。

 

神山   人は、人間のベストとコンピューターの一般を比べたがる、という話があります。一昔前、コンピューターがプロの棋士に勝った、という話がありましたが、ほとんどの人はもっとずっと昔から将棋でコンピューターに勝てなくなっていたはずです。今や、無愛想なコンビニの店員よりも愛想のいいアンドロイドは現実の物となっています。もちろん、一流ホテルのコンシェルジュには負けるかもしれませんが、コンビニのレジ打ちくらいはできるでしょう。

 

──   人の心に寄り添い、孤独を救うというwarmなイメージと、人工知能というcoolなイメージの組み合わせはとても斬新に感じます。新しい『試み』を感じます。でもやっぱり、どこか感情的な部分で受け入れられない人も少なくないのではないでしょうか。

 

神山   そうですね、もちろん感情的な問題は大きいし、尊重しなければなりません。ただそれは、段階的なものだと思います。会話というものが孤独を救うのは、僕の実体験からも間違いないです。しかし、会話している、孤独じゃない、と感じる事ができれば、その相手が人工知能かどうかは問題ではないのではないでしょうか。実際に、スマホアプリやゲーム機器が人々の孤独を癒している場合もあるでしょう。

 

──   アンビバレントな感情を抱くのは、過渡期の苦しみに過ぎない、ということでしょうか。

 

神山   そうですね。2045年までにロボットの技術革新は完成すると言われていますが、それまでは葛藤も続くでしょう。だからと言って、技術開発を止める事はもっと良くない事態を引き起こします。なぜなら、止めたとたんに、それを悪用しようとする人たちの開発の方が進んでしまうからです。

 

──   いつの間にやら話がどんどん大きくなってしまいました。もっと続けてお伺いしたいのですが、ここでそもそもの話に戻っていいでしょうか。

 

神山   この話の続きは、酒でも飲みながらまたじっくりしたいね。(笑)

 


IMG_1931恵比寿西にある「カンパニリズモ」。神山さんのお話に負けず劣らずアツアツのお料理でした。生パスタはもちもちボリュームたっぷりで、満足感◎

なんかすごい、なんか勝てない、のなんかって何?

 

──   どうして経営者になろう、と思ったのでしょうか。コンサルティング会社、投資ファンド、そしてベンチャー企業社長というキャリアだとお伺いしていますが、始めから経営者になることを目指しており、ステップアップしていったのでしょうか。

 

神山   その時々に興味のあるものをやってきた、というのが正しいです。新卒で入社したコンサルティングの仕事は、上流の部分を担当する仕事でした。提案しっ放しではなく、プロジェクトの最後まで関わりたいと思い、投資ファンドに転職しました。ところが今度は、創業者といった方々から感じる、なんかすごいなっていうものに興味を感じ、その“なんか”を知るために経営者になろう、いや、ならねばなるまい、と考え会社を設立しました。

 

──   その、なんかすごい、という言葉はどういう意味でしょうか。

 

神山   ロジカルシンキングだとか、投資のスキームだとか、ビジネスモデルだとか、頭脳では負ける気がしないのだけど、どうしてもこの人には、なんか勝てない!っていう感覚かな。

 

──   人間としての成熟といった、精神年齢的なものでしょうか。

 

神山   精神年齢っていうのとはちょっと違うかな。志という言葉にしてしまうとあまりにも陳腐だし。言葉にできないし、言葉にすると“なんか”っていうこの感覚が抜け落ちてしまうかな。

 

──   うーん。わかるような、わからないような…

 

神山   経営者というのは、ある意味博打打ちなんです。真の経営者というのはその勝負の上に乗っかっちゃってるんです。だから善悪の基準が人とは違っていて、大局的な視点で物事を捉えているように感じます。

 

──   歴史小説なんかを読んだ時、名将や偉人たちの生き様に心が震えて思わずため息が漏れるような、そんな感覚なのでしょうか。実際に経営者になられて、“なんかすごい”という感覚に変化は生じましたか。

 

神山   すごいな、勝てないな、とは未だに感じます。でも、その感じ方の強度は変わってきたかもしれません。経営者はたくさんのことを経験するので、自然と神経も太くなります。(笑)

 

──   最後に、神山さんが経営者を続けるモチベーションはなんですか。

 

神山   単純な好奇心です。心を見るという試みがしたい、この言葉に尽きると思います。

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ランチを終えて

昔のSF映画と言えば、人工知能が暴走して人類を支配しようとしたりと、人類vsコンピューターという構造のものが多かったように思います(だから私はSFが好きじゃなかった)。しかし最近は、人口知能に恋をしたり人工知能との友情を描いたりする作品が話題になることもしばしばあります。人工知能が孤独を救う未来も、案外遠くはありません。非常に論理的に将来を見つめる一方で、“なんか”という言語化できないモヤモヤしたものもそのまま受け入れる幅の広さが、なんかすごい!と感じました。

会話型見守りサービス「つながりプラス」WEBサイト:http://tsunagariplus.cocolomi.net


 
 
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